冬の朝、家を出てから気づくことがある。
「あ、手袋忘れた……」
玄関を出たときはそこまで寒く感じなかったのに、自転車に乗った瞬間、空気の冷たさが一気に手に伝わってくる。ハンドルを握る指先が、じんじんしてきて、思わず力が入る。
ペダルをこぐたびに、風が手に当たる。逃げ場がなくて、ただ冷たい。息を吐くと白くなって、「今日は本当に冬だな」と、ようやく実感する。
ポケットに手を入れたいけど、自転車だからそれもできない。信号待ちのあいだ、両手をこすり合わせてみても、すぐに冷えてしまう。「たった一つ忘れただけなのに」と、少しだけ後悔する。
そんなとき、前を走る人の手袋がやけにうらやましく見える。厚手の手袋に包まれた手を見て、「あれがあるだけで、全然違うんだよなぁ」と思う。
実際、手袋をしている日は、同じ道でも全然つらくない。冷たい風があっても、ハンドルを握る感覚はちゃんと残っていて、手の中が守られている感じがする。それだけで、心まで少し余裕ができる。
手袋って、あったかいだけじゃなくて、安心なんだと思う。「大丈夫だよ」って、手ごと包んでくれているみたいで。
忘れた日は寒さが身にしみるけど、だからこそ、次の日に手袋をはめたときのありがたさがわかる。冬は、そんな小さな気づきを、静かに教えてくれる季節だ。



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