小学生のころ、夜中に外へ出られる日なんて、ほとんどなかった。でも、大晦日から元旦にかけてのあの時間だけは特別で、眠い目をこすりながら上着を羽織って、「行くよー」と声をかけられると、胸が少し高鳴った。
家の外は、昼間とはまるで違う空気で、冬の冷たい空気が肺いっぱいに広がる。吐く息は白くて、足音だけが静かな道に響いていた。そんな中、家族と一緒に向かう神社への道は、いつもより長く感じた。
神社に着くと、境内にはぽつぽつと人が集まっていて、焚かれた火のパチパチという音が耳に心地よかった。お焚き上げの炎は、じっと見ていると不思議と飽きなくて、暖かさと一緒に、なにか大事なものまで包み込んでくれるような気がした。
一番楽しみだったのは、神社でいただく年越し蕎麦。発泡スチロールの器に入った、あったかい蕎麦を両手で持って、ふうふうしながら食べる。その味は、家で食べる蕎麦よりも、なぜかずっと美味しかった。夜中に食べるからなのか、神社だからなのか、理由はわからないけれど、あれは間違いなく特別な味だった。
夜の神社は、昼間とはまるで別の顔をしている。暗い空に浮かぶ灯り、静かな鈴の音、知らない人たちの小さな話し声。その全部が合わさって、少し神秘的で、ちょっと怖くて、でも心地よかった。
今思い返しても、あの夜は不思議な時間だったなと思う。夜更かしを許された嬉しさと、新しい年が来る直前のそわそわした気持ち。大人になった今でも、年末になると、あの夜の空気をふと思い出す。



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