最近、道を歩いていてストリートの弾き語りなんかを見かけると、「やっぱりバンドってかっこいいなぁ」としみじみ思う。音が重なった瞬間のあの一体感、誰かと一緒に同じリズムを刻む楽しさ――それは見ているだけでも伝わってくる。そんな気持ちになるのは、きっと昔、たった1日だけだけどバンドを組んだことがあったからだと思う。
あれは会社の集まりで、余興として何か盛り上がることをやろうという話が出て、「じゃあバンドやります?」みたいな軽いノリで決まった。今考えると、とんでもなく大胆な決断だった気がする。
とはいえ、当時の私は楽器なんて触ったこともなくて、担当はどうする?という話になったとき、なぜか「じゃあベースをやります」と言ってしまった。会議室での打ち合わせの帰り道、スマホでベースの持ち方を検索しながら帰った自分を思い出して、いまでも笑えてくる。
本番までの間は、仕事終わりにメンバーで集まって、会社の倉庫の片隅を借りて練習した。蛍光灯の白い光の下、ぎこちなさ全開で音を合わせていたあの時間は、今思い返すとすごく愛おしい。ベースの弦を鳴らしたとき、ドラムやギターと一緒に音が重なった瞬間、“あ、音楽ってこうやってつながるんだ”と胸がふるえた。
当日の朝、スーツ姿でベースケースを持って出勤したときの妙なそわそわ感も、よく覚えている。会場では上司も同僚もにぎやかで、舞台の袖から人々のざわめきが聞こえてくる。ライトが当たった瞬間、緊張よりも「やるぞ」という気持ちが勝っていた。演奏が始まると、思っていた以上に夢中になっていて、気づけば曲が終わる頃には汗をかくほど全力だった。音がひとつになる感覚が、なんとも言えないほど心地よかった。
たった1日のバンド、たった数分の演奏。それでも、あの一体感の楽しさは今でも胸のどこかに残っている。だからこそ、いまも街でバンドを見るたびに、少しだけ自分の心もリズムに揺れるのかもしれない。



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