山のそばで暮らした日々

日記

子どもの頃に住んでいた場所を思い出すと、まず浮かぶのは“山の近さ”だ。家の裏側に広がる緑の斜面、季節ごとに色を変える木々、そして風に揺れる葉の音。朝起きて窓を開けると、すぐそこに自然があった。

家の近くでは、キジが当たり前のように歩いていた。鮮やかな色の羽が太陽にきらっと光って、なんだか特別な生き物みたいに見えたけど、地元では「また来てるなぁ」というくらい日常の一部。少し離れた畑では、サルたちが野菜を勝手に食べてしまうなんてこともあって、農家さんは大変そうだったけど、子ども心にはちょっとした“自然の事件”みたいでなんだかワクワクした。

改めて思い返すと、ほんのり田舎だったんだなぁと思う。でも、その“ほんのり”が心地よかった。家から少し歩けば、山の小道に続く入り口があって、誰にも会わずに自然に溶け込める場所がいくつもあった。

学校から帰る途中や、休日の午後。ふらっと山や川へ向かって、大きな石に腰を下ろしてぼーっとしたり、川の流れをずっと眺めていたりした。何をするでもなく、ただ広い自然の中にぽつんと立っていると、自分がふわっと軽くなるような、不思議な安心感があった。

あの頃は、静かな時間を過ごすことに特別な意味なんて考えていなかったけど、今振り返るとすごく贅沢な時間だった気がする。都会に出てから、あの静けさや空気の澄み方がどれだけ貴重だったか、ときどき思い出してはしんみりしてしまう。

山の匂い、川の音、木々の影。自然の中には、いつでも心を整えてくれる何かがあった。今でも自然のそばに行くと、あの頃の自分に戻れるような気がして、なんだか落ち着く。

ふとした瞬間に、あの景色が心の奥から浮かんでくる。きっと、あの場所は今もどこかで変わらずに、静かに季節を重ねているんだろうな。

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