高校生のころ、雪の降る日はいつもバスで帰っていた。白い息を吐きながら、停留所で肩をすくめて待っていると、遠くからライトに照らされた雪が舞って、まるで世界が少しスローモーションになったみたいだった。タイヤが雪を踏みしめる「シャリ、シャリ」という音も、冬のBGMのように耳に残っている。
バスがやってくると、扉のすきまからふわっとあたたかい空気が流れてきて、それだけでほっとした。窓際の席に座って、ストーブの効いた車内で外の景色をぼんやり眺める時間が好きだった。通り過ぎる家々の明かりや、雪に照らされてオレンジ色に光る街灯。なんでもない風景なのに、バスの窓越しだと少しだけ特別に見えた。
揺れに身を任せていると、だんだんまぶたが重くなってくる。友達と話していたのに、気づいたらウトウトしていて、「次だよ」なんて肩を軽く叩かれて目を覚ますこともあった。あのゆらゆらとした心地よさは、なんだか魔法みたいだった。
社会人になった今でも、不思議とバスに乗ると眠くなる。道路のリズムとエンジンの低い音、カーブを曲がるときのわずかな重心のずれ――全部が懐かしい。冬の夕方、窓の外に雪がちらついていると、あの頃の通学路を思い出す。帰りの車内で少し眠って、目が覚めると街が夜になっている。それがなんだか、大人への階段をのぼる途中みたいに感じていた。
今もバスに乗ると、少しだけあの頃の安心感を思い出す。温もりのある座席、薄暗い照明、揺れるリズム。静かで、優しくて、どこか時間がゆっくりになる感じ。あの帰り道のバスは、私にとって小さな「冬の休憩所」みたいなものだったのかもしれない。



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