クラシック

日記

「天国と地獄」という曲名を初めて知ったのは、ずっとあとになってからだった。

子どものころは、そんなタイトルだなんて知らずに、ただ「運動会の曲」として耳にしていた。徒競走やリレーのスタート直前、スピーカーから勢いよく流れてくるあの軽快なリズム。ピストルの音と同時に走り出す瞬間のワクワクと焦りの混じった空気が、今でも鮮明に思い出せる。

グラウンドの土の匂い、遠くから聞こえる応援の声、赤白帽のひもが風にふわっとなびく。「天国と地獄」は、そんな光景といつも一緒にあった。だから、子どものころの私は、あの曲を聴くと「運動会だ!」という気持ちになる。まさかそれがクラシック音楽の一つだったなんて、思いもしなかった。

大人になって、ふとラジオで流れてきた「天国と地獄」。「懐かしい!」と思って聴いていたら、当時とまったく違う印象を受けた。同じ曲なのに、運動会の賑やかさじゃなく、オーケストラの華やかさや、音の流れの美しさを感じる。「急がしいリズム」ではなく「軽やかな舞台の音楽」に聴こえる。子どもの頃は気づかなかった音の重なりや、テンポの緩急。それを感じ取れるようになっていて、少し大人になった自分に気づいた。

あの頃は走ることに夢中で、曲なんてほとんど意識していなかったけれど、今聴くと、ひとつひとつの音がちゃんと表情を持っている。笑っているような、少しおどけているような――そんな感じ。「天国と地獄」って、名前のとおり、明るさとドタバタの間を行き来しているような曲なんだなぁ。

運動会の朝、緊張でお腹が痛かったことも、友達と笑いながら全力で走ったことも、この曲を聴くと、全部まとめて思い出のページが開く。音楽ってすごい。時間を超えて、あのころの匂いや空気を連れてきてくれる。

今は走らなくなったけど、たまにイヤホンでこの曲を聴くと、気持ちだけはグラウンドの真ん中に戻れる気がする。

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