牡丹の花

日記

庭に出たら、牡丹の花が咲いていた。朝の光を浴びて、少し湿った空気の中に、ふわっと甘い香りが漂っていた。近づいてみると、思わず息をのむ。花びらがとにかく大きい。まるで一枚一枚が絹のようで、何層にも重なっている。風が吹くたびにゆるやかに揺れて、そのたびに違う表情を見せてくれる。

「なんか、すごいなぁ」とつい口に出た。花って、もっとさりげないものだと思っていたけれど、牡丹は違う。堂々としていて、静かに自分の存在を主張しているように見える。朝日を受けながら、ただそこに咲いているだけなのに、なんだか強さを感じた。

庭の隅に植えてあったのは、たしか祖父が昔から大切にしていた株だったはず。春になるたび、「今年も咲くかねぇ」と言っていた姿を思い出す。当時はそれほど気にも留めなかったけれど、いざ自分の目で見ると、その言葉の意味が少しわかる気がした。この季節にしか見られない一瞬の美しさ。それを楽しみにしていた祖父の気持ちが、今ならなんとなくわかる。

花びらの端に朝露が残っていて、それが陽の光を受けてキラリと光った。しゃがんでよく見ると、中心にはまだ小さな蕾も隠れている。咲く前の、少し緊張したようなその姿もまた愛おしい。人の手が何も加わらなくても、自然の中でこうして力強く咲く花の存在って、本当に不思議だ。

カメラを取りに行こうか迷ったけれど、結局そのまま眺めていた。写真よりも、この空気や時間ごと覚えておきたい気がしたからだ。ほんの数分の出来事だけれど、朝からなんだか心が整っていくような気持ちになった。

今日も一日、がんばろう。そんな気持ちにさせてくれる花の力って、すごいなと思う。牡丹の花びらがゆるやかに揺れながら、春の風に「いってらっしゃい」と言っているように見えた。

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