秋になると、ふと風の中に優しい色を探したくなる。そんなとき、思い出すのがコスモスの花だ。
子どものころ、家の近くのあぜ道や公園の脇には、当たり前のようにコスモスが咲いていた。ピンクや白、まれに見つける濃い赤紫。背の高い茎が風に揺れて、群れになってふわふわと踊っていた。通学路の途中で、つい立ち止まって眺めたあの景色。遠くに見える夕焼けと重なって、あたたかいオレンジ色の光の中にコスモスが揺れていたのを、今でも思い出す。
あの頃は、どこにでも咲いている花だと思っていた。川沿いにも、畑の端にも、誰が植えたのかわからないような場所にも、コスモスは咲いていた。風が吹くたびに、まるで人の手を振るようにして「おかえり」と迎えてくれるような、そんなやさしい花だった。
でも、大人になって都会で暮らすようになってから、コスモスを見かけることはほとんどなくなった。ビルの谷間の風はどこか冷たく、道路の脇に花が咲くような余白も少ない。それでも時々、通勤途中に見かける植え込みの一角に、誰かが植えたコスモスを見つけることがある。小さなピンクの花が、アスファルトの隙間からそっと顔を出していて、それだけで少し心がほぐれる。
季節の花って、不思議だ。その時期にしか咲かないのに、いざ姿を見かけると、何年も前の記憶まで鮮やかに呼び覚ましてくれる。コスモスを見ると、あの秋の空気、帰り道の土の匂い、友だちの笑い声――全部いっしょに思い出す。
都会では見かけることが少なくなったけれど、コスモスは今も私の中で「秋の色」として生きている。またどこかで見つけたら、少し立ち止まって眺めてみよう。あの頃の風を思い出しながら、静かに揺れるその花に、そっと「久しぶり」と声をかけたくなる。



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