ぼくらの昆虫探検記

日記

小学生のころ、初めてパソコンのゲームに触れた日のことを、今でもよく覚えている。たしか授業の一環で、週に一度だけあった「パソコンの時間」。教室とは少し離れた特別室に入ると、ずらりと並んだ大きなモニター。電源を入れると、ブーンと低い音がして、画面がゆっくりと明るくなる。それだけで、なんだか未来の扉が開いたような気がした。

その中でも特に夢中になったのが、「ぼくらの昆虫探検記」というゲーム。(こんな名前だった気がします……)名前を入力してスタートすると、草むらの中に入り込んで、虫を探す冒険が始まる。矢印をクリックすると、画面の中の自分の分身がゆっくり進み、「カブトムシを見つけた!」なんて文字が出るたびに、心が躍った。

現実の虫取りと違って、蚊に刺されることも、転ぶこともない。でも、どこか本当に夏の草むらにいるような気がした。スピーカーから聞こえる虫の声、風の音。まるでパソコンの中に小さな自然が広がっているようで、画面をのぞき込むたびに、胸がわくわくして止まらなかった。

授業が終わるチャイムが鳴ると、みんな名残惜しそうにマウスを置いた。「もう少しでクワガタ捕まえられたのに!」そんな声があちこちから上がって、先生が笑いながら「また来週ね」と言っていた。次のパソコンの時間までの一週間が、子どもながらにとても長く感じた。

今思えば、あの“虫取りゲーム”が、私の中で最初の「デジタルの感動」だったのかもしれない。ただの授業の一時間なのに、世界がひとつ広がったような気がした。パソコンの中で探検することが、こんなに楽しいなんて――あの頃の私は、そんな発見に胸を躍らせていた。

今はどんなゲームも本格的で、リアルで、美しい。だけど、あの「ぼくらの昆虫探検記」を超えるわくわくは、きっともうない。あの夏の日の教室の空気と、画面の向こうの草むら。小さな探検は、今も心の中で続いている。

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